アルゴリズム的思考の射程──不可視のインフラストラクチャーの実装に向かって

柄沢祐輔

磯崎新氏

左=伊東豊雄氏、右=フロリアン・ブッシュ氏

左=筆者、右=藤本壮介氏

江渡浩一郎氏

神成淳司氏

『10+1』No.48(9月30日刊行)では、上記方々へのインタビューを収録しています。→目次

『10+1』の最新号「アルゴリズム的思考と建築」特集が刊行された。編集協力者として今回の特集の刊行を迎えるにあたって、アルゴリズム的思考と建築という特集がどのような射程をもっているのかを簡単に説明したいと思う。そもそもこの特集には前段階としての1本の補助線が存在している。『10+1』No.47の、筆者と藤村龍至、南後由和による巻頭鼎談「アルゴリズムによって深層と表層を架橋せよ」がそれである。この鼎談において、筆者はアルゴリズムを「決定ルールの時系列を伴った連なり」として定義した。このアルゴリズムの広義の定義によって、まったく新しい建築や都市を構成する方法論と、現状の都市を分析するための有効な方法論を提示できるのではないかという期待をもって対談は終了している。

今回の特集は、その鼎談における問題系を継承・発展したものである。では、なぜ今アルゴリズムなのか。特集リード文(pp.70-71)においてはその意味を思想史的、美学的な側面から説明を試みているが、そこでは触れられていない社会的な文脈での意味についてここで補足的に説明を試みたい。

まず、前号鼎談のなかで触れている内容を反復するならば、現状として徹底的に情報化した社会状況が存在しており、そこでは東浩紀の言葉を借りるならば深層(データベース)と表層(シミュラークル)の乖離した状況が指摘される。深層とは社会的インフラストラクチャーや種々の情報ネットワークの堆積であり、それらは普段私たちの意識に現われない領域に追いやられている。表層とはその不可視のインフラストラクチャーの上に展開される華々しい視覚的情報、サインの乱舞であり、通常私たちの意識が把握する都市のリアリティを指している。そのなかでGoogleなどの検索システムは、その不可視のインフラストラクチャーを可視化するためのインターフェイスとして存在している。そこでは独自の情報検索のアルゴリズムが、インターフェイス上の視覚的情報の立ち現われを規定している。いわばアルゴリズムによって、私たちのリアリティの大部分が規定されている状況が今日の私たちの社会と都市を取り巻く現状なのだ。

アルゴリズム的思考とは、そのような社会の現状に切り込み、再び都市のリアリティを獲得するための方法論として存在しているといってもいい。不可視のインフラストラクチャーと都市の表層の視覚的記号の乱舞を架橋し、まったく新しい都市と建築を構成する方法論を編成すること。近代後期が終焉し、市場化、経済化、情報化が徹底的に進む今日、私たちの建築や都市を構成する方法論が確実に変化を遂げている。そこでは、建築家が社会の水面下に不可視のものとして存在しているインフラストラクチャーに関与するために、建築家自身が不可視のインフラストラクチャーをさまざまなかたちで実装することが求められているといっていい(ここでメタボリズム期における、建築家によるメガストラクチャーの提示を対比的に想起してもいいだろう)。アルゴリズム的思考の本当の射程とは、とりもなおさず、建築家による不可視のインフラストラクチャーの設計・実践のための方法論を示唆するものにほかならない。水面下でドラスティクな社会構造の変革が進展するなかで、真に今日的な建築を構想するために、アルゴリズム的思考は私たちの世代に与えられた広大な創作のドメインを開示するだろう。

[からさわ ゆうすけ・建築家]


200709


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